深夜着のマニラ空港。
ひょうきんな顔した蜂のマークの
ハンバーガーショップで夜を明かし、
そのままもう一回飛行機に乗る。

朝日が南洋の地方空港を横から殴る。
ひっきりなしにクラクションが行き交う。
雨上がりに濡れた路面と街路樹が眩しい。
パングラオ島、タグビララン。

賑やかさと爽やかさのごちゃまぜ。
気分が高揚するのが自分でもわかる。

濃密な熱気の中、
商魂逞しい現地の運転手たちが
「オレノ クルマ 乗ッテケ」と
燕雛のようにさえずっている。

それを掻き分けると、
真っ黒に焼けたカズさんが手をあげていた。

再会をしばし喜び、
用意してくれた車に乗り込む。

キンッキンに効いたエアコン
皆、安堵のため息。

ほどなくして
海が目の前で
椰子の木だらけの
こじんまりとした宿に着き、
荷を解き1時間後には船の上。

早く潜らないと
逸る気がおさまらない。

去年末襲来した季節外れの台風で
大被害を受けた地域。
家屋もボートも。

復活した新艇は
とても大きく広くなってて
快適空間成分マシマシだった。

カズさんもクルーも
どこか誇らしげだった。

僕らの知らないところで
歯を食いしばってたはずだから。

フィリピン特有の
12Lのアルミタンクの重さに
両肩が「これこれ!」とニヤニヤする。

ジャイアントでエントリー。
どぷん。
ぬるい。
手元の計器で29,5℃。

スーツに侵入する潮水を
全身の毛穴からガブガブ飲む。
あぁ、うめぇ。

地平線の向こうまで広がる
花畑や野菜畑のように
いろんな形のサンゴたちが
眼下を埋め尽くして圧倒する。

その上空をオビタダしい量と
凄まじい種類の小魚の群れ。

ピンク、オレンジ、スカイブルー、
藍色、紅色、紫色、黄色、白銀。
子供のお道具箱をひっくり返したかのよう。

呼吸音に合わせて
一斉にサンゴに隠れたり
ワラワラと浮いてきたり
その一部始終に視線に鍵がかかる。

ゴージャスな花吹雪を抜けて
沖に出るとドロップオフ。
直立に切り立った壁の下は
ぱっと見-50M。

浅場は足の踏み場もないほどのサンゴ、
深場はそもそも底がない。

そんな理由でこの海は
全く着底を許してくれない。
潜ったら最後、浮上するまで
中性浮力をキープする技術を求められる。

初めての海外の海に潜るボンちゃんが
夢中でカメラを持つ手を伸ばしてる。

ゆるい潮の流れの
ベルトコンベアに乗っていると
カメの方から挨拶しにきてくれる。
そんな小一時間。

カズさんの奥様のアミさんが
毎回作ってくれるお弁当。
野菜の味の濃さや、歯応えが
いつもすごくおいしい。

余談ですがお肉のおかずには
フィリピンならではの
バナナケチャップが好評です。

トマトじゃなくてバナナです。
もうね、これは実際食べてみないと
説明できないです。
ぜひお試しください。

ランチ後には
ジェスがたっぷりのマンゴーを切ってくれて。

先月の西表島でもそうだったけど
南の島の果実を前に
人は問答無用で笑顔になる、気がする。

今回のダイビングは
尻上がりに激しさを増し

移動中にイルカが出て
いい感じのバラクーダの群れが出た。

次のダイビングで
カズさんが「入ってすぐに出すから」
と冗談ぽくいってたら、

潜降したブイ下で、
ギンガメアジの大群が
すでに渦巻いてて。

リピーターのユキさんは
疲れたよと言いながら
ずっと流れを逆らってくれて

群れで向こうが見えないという
状況がはじめてのゆーき君とはるかちゃんは
レギュを加えたまま絶叫してる。

これ以上はないなー
期待したらバチがあたるなー
なんて言ってたら

最後のダイビングは
バラクーダ群れとギンガメアジ群れ
が同時に現れて
いわゆる「ギンバラ」という祭り状態になった。

4年前に初めてここで潜った時は
ピヨピヨだったカオリさんが
GoProを群れに突き刺して喜んでる。

そしてご主人のトヨヒロさんは
見事に奥様を放置しご自身の世界に浸っていた。

バリカサグ島のブラックフォレストの海水が
炭酸になったかってくらいに興奮したみんなの排気泡で沸騰していた。

リッピーは何度もガッツポーズをして
アヤミはなぜかみんなと逆方向にいつも泳いでいた。

いろんな国から来てる
ダイバーたちも群れに夢中で
しっちゃかめっちゃかになってて

カズさんはそれらをみて
「もうメチャクチャ」とスレートに書いて僕に見せた。

そう、メチャクチャ。

メチャクチャに、みんな喜んでいた。
そして僕も。

今回も僕らは美味しいものだけを堪能した。

フィリピン銘菓・ハロハロを食べたり

毎晩連れて行ってもらう食堂は
お腹に幸せとはち切れんばかりの苦しさを与えてくれた。

路上で売っている
バロットを
僕とはるなが挑戦した。

バロットとは孵化寸前のアヒル卵で
ゲテモノ食とも珍味と称される食材をみんなが敬遠する中
彼女が一緒に挑戦してくれたのは
すごく心強かった。

「16日目モノと17日目モノ、
どっちにする?」

と、生まれて初めての選択を迫られたが
我々には全く判断基準がない。
とりあえず両方頼んで、
どっちかをどっちかが食べた。

手渡された卵は
なかなか持ってられないほど熱い。

見た目のエグさからか
夜の真っ暗な路上でしか売ってないらしく
ケタタマしくクラクションを鳴らして
通り過ぎる車やバイクのライトを
頼りに殻を剥いた。

その刹那、中身が照らされた。
血管らしきスジスジが見えてしまった。

これ以上の鮮明な視覚情報は
今後のスムーズなプロセスを妨げてしまうと察知した賢明な僕は

反転し背中でライトを遮り、
暗闇を保ちながら
さらに万全を期すため目を瞑ってかじりついた。

(反転すると、教会が見えるんです)

拍子抜けするほど
普通の卵の味だった。

そしてこういう感覚、久々だなと齧りかけの卵に
塩をかけてもらいながら
はるなの方を見た。

見た目ギャルの彼女が
バロットに齧り付いてるのが
現地の人たちにも面白いらしく
ものすごい人だかりができていた。

最後に「ホタル見に行かない?」
と誘われ、お隣ボホール島のアバタン川へ。

マングローブの川へ
ボートを出してもらいホタルを見るのだ。

新月で真っ暗の川をボートがゆっくり進む。
見上げると満天の星で船上が沸く。

南十字星のずっと向こうでスコールの雷が時折光る。
涼しげな川風が心地よい。

特有の芳香を放つ花のマングローブにしか
ホタルは集まらないらしい。

想像以上に大量のホタルが
鮮やかなレモンイエローに明滅して
まるで満開の樹木のようだった。

この小さな虫たちが
繰り広げる恋のお祭りを
どっちがいい感じで撮れるか
iPhone派とTG派に分かれて
ギャーギャー盛り上がった。

「だれが優勝?」
と、カズさんが聞いた。

みんな優勝の出来だった。
今回の旅は、みんな優勝だった。
それでいいと思った。

今回のムービーでーす!

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