3年ぶりの流氷ダイビング!

柔らかな布団の中の鼓膜、
半狂乱なカモメたちの叫び声が届く。
開けた薄目、刺さる濃い橙。

あぁ、そうだ。
羅臼来てるんだった。
昨晩はみんなで部屋飲み。

朝餉の香りを頼りに
大あくびゾンビで階下の食堂へ。

おはようございます。
あぁ、もうみんな座ってる。
いただきます。

まず啜る、お味噌汁。
わかめとネギの具
飲んだ翌朝、言わずもがな。

海苔、目玉焼き、シャケの焼いたの。
舌と鼻腔が喜んでる。

千切り長芋、生たらこ
TVは熱狂、WBC。

漬物と白いごはん
今日のこれからを考えると
体が熱を作るものを入れた方がいい。

廊下の窓
雪山の斜面仰いで歯を磨く。
キタキツネやオジロワシ。

雪溶けて濃緑のクマザサが顔を出す。
ハウアヒハイハ、とか一丁前に呟いてみる。
春が近いな。

車にダイビングの装備を積み
それ以上の期待で車内を満載にし
海沿いの雪解け道をビシャビシャ走る。
沖に大きな島が浮かぶ。

今回のお目当ては、流氷に潜ること。

シベリア沿岸で生まれた氷が
サハリン沿いの東樺太海流に乗って南下。
弧状に待ち構えた
紋別ー網走ー斜里あたりに直撃して結氷。

氷たちは宗谷暖流や季節風によって
東へ押し出される形で割れ
互いに乗り上げ、潜り込み
己の分厚さと迫力と美しさを増しながら
突端の知床岬を超える。

‥のだそうだ。

実際に氷の旅を見てないから
本当のところは流氷たちに聞かなきゃわからない。

そのまま東に流されてしまうところに
待ち構えているのが、沖の国後島。
ザ・北方領土。

羅臼と国後。
わずか20kmほどの海峡の間を
風と潮流と遊びながら
こっち岸とあっち岸を
流氷は行ったり来たりする。

今日はどっちだ?
流氷は来てるのか、離れたのか?

そんなことに一喜一憂できる。
今日は3月11日。

ポイントに着き
暖かな車を降りて海況チェック。
ひんやりした大気の
居心地の良さににんまりする。

潮溜まりの雪氷の結晶は
和装の織物のような
品のある鈍い光沢を放っていて
当然、踏めない。

果たして流氷はあった。
ありがたい。

水温は氷点下。
これに耐えうる装備を着込む。

水を通さないドライスーツの下に
手足のついた寝袋みたいなツナギ。

さらに暖かいインナーをもう一枚。
エベレスト登山隊も着てるよ、
なんてセキさんたちに教えてもらったヤツ。

着膨れしている分
笑っちゃうほど浮く。
そのために重くする。

ウェイトベスト背負って
ウェイトベルトを腰に巻いて
足首にもウェイト。

ウェイトだけで15kg前後つける。
これでタンクを背負えば
総重量は30kgを超える。

初めての人は
寒さの前に重さにビビる。
動きづらさに焦る。

他の海で何百本も潜ってる人が
なんてことない準備にゼーハーしてる。

リップガードも自分でつけられない。
フードもマスクも手伝ってもらう。
フィンも3指グローブも一人で履けない。
(ちなみに北海道では手袋を履く、と言う)

セキさんもアオヤギさんも
ニイクラさんもカマダさんも
文句一つ言わずに
ニコニコ手助けしてくれるから

ここで潜るとみんな、
自分の不甲斐なさに
ダイバーになりたての頃を思い出す。

素晴らしい海が
世界中にある中で

「ここじゃないといけない」
確かな理由と
寒冷地用のレギュレータを噛み締めて
流氷の隙間の海面に顔をつける。

「槍のような水が
装備の隙間から刺さってこないか?」

水面にはニラスと呼ばれる
薄い弾力のある海氷も待ち構えている。

「エアはきちんと吸えるか?」

フード越しの頭蓋に感じる
細かく割れたニラスが
水面直下の水色を朧に映す。

「心の準備は、いいか?」

BCから排気。
オーバーウェイトだから
あっという間に降りていく。
モヤってた視界がクリアになる。

着底し見上げると
カミナリ雲のような威容で
流氷がその腹を見せつけてくる。

氷の厚さ薄さ
アイスアルジー(珪藻類)
太陽の角度

で濃淡や氷色が
鮮やかに変わる。

流氷の先端が砂地をひきづって
道を作っている。

圧倒的な存在に
見惚れる。

氷越しの空の青さに
ただただ見惚れる。

流氷に問いかける。
その長い旅の途上を。

そしてそっくりそのまま
同じ問いを流氷に
投げつけられているような
錯覚を起こす。

きっと僕の自意識過剰だ。

大自然はヒトの存在を
けっちょんけっちょんに
無視する形で
あるがままを認めてくれている。

潮が走り始めるにつれ
巨氷たちはかなりのスピードで
僕らの頭上を
通り過ぎていくようになった。

まるで僕らのことなんか
気づいてないかのように
歌っているようだった。

とかカッコつけてたら
実はレギュが凍って
フリーフローし始めてる音だった。

手首のコンピュータを見ると
そろそろ1時間。

もうそんなに経ったのか
いつも浦島気分で
後ろ髪を引かれる。

岸に戻ると
あっという間に流氷帯が接岸して
圧倒的な白が迫ってきた。

ゼーハー言いながら
重い器材を下ろして

用意していただいたお湯を
頭から浴びて
動物のようにうめく。

みんな放心状態で
沖まで真っ白な海を見てる。

あれもこれも
それもどれも
近いうちに溶けてなくなる。

「流氷」は春の季語らしい。

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