長崎に行ってきたバイ!

気持ちをまとめるのに時間がかかった、というか、
怒涛の忙しさでこんな時期になってしまいましたが、
去年の11月末の話です。

学生の頃、僕が所属していたジャズ研の、
同じ代に彼はいました。

その頃から凄腕のドラマーで、
凝り性で、
研究熱心で、
己に妥協しない、
素朴で真っ直ぐな熱い男でした。

めんどくさい性格の僕とは違い、
後輩から慕われ、
先輩から可愛がられていました。

その頃、僕らは部室に棲んでて。
住んでてじゃなく棲んでて。

本当にお金がなくて。
サンドイッチが食べたくてもお金が足りず、
食パン1斤だけなんとか買えて。

具になるものは何も買えず、
しょうがないからパンとパンの間にパンを挟んで(つまりただのパン3枚)を
「パンサンド」と称して食べたり。

平成の米不況で国が緊急輸入したタイ米が、
大量に余って投げ売り状態だったのを嬉々として購入し、
お茶碗に2膳よそって、1つに醤油をかけ、
それをおかずと称してもう一膳を食べたり。

農学科の人たちが授業で育ててたお芋を、
夜中に忍び込んで収穫して焼き芋したり(すみませんでした)。

部員がバイト先からもう客前には出せないお肉を
いっぱいもらってきてくれて、
歩道と車道の段差を埋める縞鋼板を校内のどこからか持ってきて、
それを洗って鉄板に見立てて、火をおこして食べたり。

ワンダーフォーゲル部の人たちから
「あいつら俺達よりサバイバルだからムカつく」
と言われたこともあったそうです。

バカといえばバカでしたが、
その反面、音楽に対してみんな超真剣で、
先輩も同期も後輩も歴代出身者は、
音楽を生業にしている人が非常に多く、
彼もてっきり音楽で飯を食うつもりなのだと思っていました。

音楽の才能も、努力する根性もなかった僕は、海の世界に逃げました。
多忙な毎日の積み重ねが数年単位になった頃、
彼が故郷の長崎で飲食店をやっていると当時の仲間から聞きました。

音楽の夢を捨て、全く未経験の料理人の道を選んだ背景には、
病気の親御さんのためという理由があることも、うっすら聞きました。

その店名は雨月(うげつ)。
彼が敬愛していたアート・ブレイキーという
ドラマーのアルバムのタイトルと同じでした。

(こんな曲です)

彼らしいなと思いました。
店にミュージシャンを集めてライブを頻繁に行ったり、
常連さんも多く繁盛店のようでした。

パンサンドとか一緒に食べてたような奴が、
口コミで「本当は教えたくない地元の名店!」とか書かれてるのを見て、
ぜんぜん想像できないまま、
僕は多忙の渦に戻り数年過ぎていきました。

そして去年。
彼が16年も地域に根づいてたその店を畳み、
同じ長崎だけどぜんぜん違う場所で新しい店を出すと聞きました。
あとで聞いた話では、これも親御さんを想っての行動だったそうです。

11月末に九州にいく用事があり、
これを逃したらもう行くことはないだろうと、
思い切って彼に連絡をしてみました。20年ぶりくらいに。

SNSのメッセンジャーで送られてきた返答は、
ただの文字なのに、”あいつ”の声色で再生され、
そして月並みな言い方ですが、一瞬であの頃に引き釣りこまれました。

今回の旅程では2日間に5件の用事をぶち込むという
我ながら激しいスケジュールになってしまい、
他にも旧友たちに会っているのですが、
これはまた別の機会にお話させていただければと思います。

レンタカーを運転し、彼の店に着いたころはもう夜の始まりでした。
車を停めると、懐かしい声と顔が迎えてくれました。

まず、お刺身を出してくれて。
ヤイトガツオ
ヒラマサ 背とハラミの部分
クマエビ

お醤油は九州独特の刺し身醤油。
学生の頃「刺身醤油じゃなきゃ、なんか美味くない」
と彼が言ってたのを思い出しました。
そうか、これがあれか。

クマエビの塩茹で
バイ貝醤油煮
里芋の棒春巻きパルメザン
カブの紹興酒漬けとローストビーフ
インゲンと桜海老の強火炒め
雨月の海老マヨ(劇的に美味かった)

モンゴウイカのイカスミソース和えパクチー

2種類の唐辛子の雨月風レバニラ

そして餃子。旨さにびっくりしました。
シンプルなメニューだから、なおさら素人の僕にも凄さが分かる。

ズブの素人のまま飛び込んだ丁稚時代
世話してくれた師匠のでかさ
やめていった仲間
心折れそうな夜
試行錯誤の上にやっとできた味
その場面場面で流れていたであろう曲

口の中に広がる滋味を支えてきた、
彼のこれまでのストーリーを
僕の脳みそが勝手に想像し、
「咀嚼しながら泣け!」と命令してくるのに抗えません。

一皿づつ説明してくれるその姿は、
凝り性で、
研究熱心で、
己に妥協しない昔の彼そのままでした。

ラフロイグだったか、
アードベグだったか、
彼が注いでくれた強くて煙たい酒が回り始めて、

何を話したか、
正直あまり覚えてないのですが、
つまり最高の夜でした。

特別に作ってくれたちゃんぽんの濃厚な旨味。
今までちゃんぽんだと思ってたあの麺料理は何だったのだろう?

彼の店は、風光明媚な海の眼の前です。
素晴らしいロケーションです。
長崎・諫早に行く機会があったら、ぜひ寄ってみて下さい。

里山かわしも

「長崎なんかいけるかよ!」
という奥様には、通販はいかがでしょうか?
皮から手作り、一つ一つ手包みです。
現時点で僕のナンバー1餃子は、かわしもです。

餃子のかわしも

(青汁のCMみたいな展開で、いつのまにか宣伝が始まってしまい恐縮です。)

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井上、美味しかったです。また行くバイ。